三陸海岸は、東北地方の太平洋岸の北半分の大半を占める、全長600kmに及ぶきわめて長い海岸線の総称で、かつてこの地方が「陸前」「陸中」「陸奥」の3国であった事から比較的近代に名付けられた。
三陸海岸と言えば全国的に有名なのが、リアス式と言われる複雑で険しい海岸線である。
中学校の地理で必ず名前が出てくることもあって、皆様の多くも「リアス=三陸海岸」というイメージをお持ちだろう。
実際に三陸海岸の大部分にリアス地形が見られるわけだが、岩手県宮古市より北側では隆起によるリアス地形、宮古以南では沈降によって生じたリアス地形というように、出来上がり方に違いがある。
無論、この違いは地形的な違いにも現れていて、南三陸ほど規模の大きな湾が多く、したがってその水深も深く、天然の良港に恵まれる。
北三陸では徐々に海岸線が海側へと後退を続けており、海岸線から垂直に切り立つ断崖絶壁という、おそらく多くの読者にとってもっとも三陸らしいと思われる景色が点在している。
これまで山行がでは二度ほど、この宮古以北の“北三陸”(正式な呼び方ではない)の海岸線に穿たれた際どい歩道や、そこに点在する隧道を紹介している。
ミニレポ「ネダリ浜隧道」と隧道レポの「北山崎隧道群」がそれである。
そして、実はさらにその続編と言うべき探索が、同日、この2つの探索の後に、行われていた。
そこには、上記二つのレポートで紹介した全隧道数を上回る多数の隧道が存在していた。
田野畑村の南端にある真木沢海岸での探索がそれである。
だが、最近まである事情によってレポートの作成が満足に出来なかった。
今回、その問題が解消したので、お待たせしましたレポートを、公開しようと思う。
「三陸の穴シリーズ」 おそらく…… これが最終シリーズ作となる。
日付は、2005年8月23日。
この日、ある一つの台風が千葉県房総沖から本州の太平洋岸をかすめながら北上を開始していた。
この時刻すでに、関東地方では猛烈な強風が吹き荒れていた。
予報では、この日の夜半頃、台風は三陸沖海上を通過し、朝には北海道南岸へ抜けるという。
嵐の数時間前の三陸、真木沢海岸の北 約0.7kmの地点に、男達はいた。
男達のうち、二人はずぶ濡れであった。
もう一人の男によって向けられたカメラに対し、一様に安堵の表情を見せていた。
二人の男