7. 平島
中之島港を出港した村営定期船「フェリーとしま」は、次の寄港地、南ノ浜港へ向かう。
中之島港を出るとまもなく進行方向右手に臥蛇島と呼ばれる無人島が見えてくる。
臥蛇島は断崖に囲まれ平地が殆ど無い小さな島だが、かつては人が定住していた。
一方、進行方向左手に見えてくる噴煙を上げる火山島は諏訪之瀬島だ。
もくもく噴煙を吹き上げる御岳の標高は796mあり、荒涼とした火山島であることが伺い知れる。
「フェリーとしま」は御岳を目の前に望みながら、ゆっくりその横を通り過ぎていく。
そして正面に現れたのが、山頂部を輪切りにしたように起伏のなだらかな平島である。
平島南端の出瀬を回りこむと、平島の南ノ浜港が姿を現した。
平島は周囲7km、人口80人の小さな島。
平家の落人が始めてトカラに降り立った島と云われ、そこから「平島」の名がついたという。
トカラの島々が、霧島火山帯に沿うように一直線に並んでいるのに対して、
この島はその軸から外れた場所にある。
そのため、トカラの島々の見晴らしに優れている。
この島の眺望性の良さが、源氏の追手から逃れる平家の落人を惹きつけたといわれる。
平島の集落は、南ノ浜港から坂を上がった丘にある。
集落には、学校、出張所、集会所、神社などがあり、
集会所には、島に生息する天然記念物「あかひげ」にちなんだ、「あかひげ温泉」があって、
島民の憩いの場になっている。
商店はひとつだけあるが、ただの民家に日高商店の看板があるだけなのに驚かされる。
営業時間も朝夕の一定の時間しかやっていない。
平島には島に郵便局はないので、郵便局の用事があると出張所で受付をして、
「フェリーとしま」でやってきた郵便の担当者に委託する。
資金を引き下ろすのにも、次の「フェリーとしま」まで待たなければならないのだ。
また集落には「島立神社」や大きなガジュマルの木がある広場があり、
そこで夏に、盆踊りが催される。
平家の落人の子孫を自負する平島の島民は、気立てがよく、人情味がある人たちだ。
小さな離島で、ともに支えあって生きてきたが故に、人と人との絆を大切にしている。
そんな島民との触れ合いは、都会の喧騒で傷ついた心を癒してくれるだろう。
島の東側の丘の上には展望台があり、そこに上がると正面間近に仰々しい諏訪之瀬島が迫る。